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国際移住機関(IOM)スウィング事務局長の来日、移民は「パーフェクトストーム」のただ中

国際移住機関(IOM)のスウィング事務局長が2月末から3月初めにかけて来日し、ワークショップ参加、日本政府や政治家との面談、記者会見等を行いました。その報道、IOMの概要、移民の定義等について主にIOMの情報からまとめました。

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 1.日本記者クラブでの会見

2017年3月2日に行われた日本記者クラブについて、各紙で報道されていますが、二村 伸NHK解説委員による会見レポートからの抜粋と、公開された会見の映像(日本記者クラブチャンネル)が掲載されていました。

www.jiji.com

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パーフェクト・ストームを抜け出るための課題」

世界の移民は約10億人。インドネシアの人口より多く、世界6番目の国に相当する。人類が直面する喫緊の問題だが、状況は悪化し続け、パーフェクト・ストーム』(複数の厄災が同時に起こる破滅的状況)の真っただ中にあるとスウィング事務局長は警告した。中東やアフリカで紛争や災害が相次ぎながら解決に向けた取り組みが遅れ、欧米では移民や難民をはじめ外国人に対する嫌悪感が強まり、政府も排他的な動きを抑えられない。そうした状況を懸念した発言である。

米国生まれの82歳。ベテラン外交官である。国際移住機関(IOM)トップとして9年間、貧困や差別から逃れ新天地を目指す声なき人々のために世界を飛び回る精力的な活動の源泉は、ナイジェリアやコンゴ民主共和国などアフリカ各国で大使を歴任、アフリカ最後の植民地と言われる西サハラ国連PKOの団長を務め、過酷な現実を自らの目で見つめ、肌で感じとった体験にあるのだろう。

では『パーフェクト・ストーム』からどうやって抜け出すのか。スウィング事務局長は、克服すべき4つの課題を挙げた。1つは「災害や紛争など人道危機と気候変動への対応」。2つ目は「人口動態の変化への対処」。人口が減少し労働力が不足する先進国に若年層が増え続ける途上国から移住を進めること。3つ目に「多様性のある社会形成のための広報・啓蒙活動」。4つ目が「幅広い議論」だという。移民や難民に関する議論が負の側面から捉えられているとして、移住が歴史的にもプラスの影響をもたらしてきた事実に基づいた議論を訴え、メディアの責任にも言及した。


ウィリアム・レイシー・スウィング 国際移住機関(IOM)事務局長 2017.3.2

 

2.国際移住機関(IOM)とは

国際移住機関(IOM)は、世界的な人の移動(移住)の問題を専門に扱う唯一の国連機関。その前身は、1951年に主として欧州からラテンアメリカ諸国への移住を支援するため、国連システム外に設立された欧州移住政府間委員会(ICEM)。ICEMは、その活動範囲を当初の欧州・ラテンアメリカから徐々に世界各国へと拡大し、1980年には移住政府間委員会(ICM)へと名称が変更され、更に1989年11月の憲章改正を経て国際移住機関(IOM)になった。2016年9月19日、多くの難民・移民が国境を越えて移動せざるを得ない危機的状況を背景に、国際社会の今後の対応を議論した「難民と移民に関する国連サミット」が国連本部で開催された際に、国連に加入。

組織概要(2016年11月現在 )

加盟国: 165カ国。日本は1993年に加盟
代表: ウィリアム・レイシー・スウィング(事務局長)
本部: スイス ジュネーブ
職員数: 9,000人以上(うち邦人専門職員は 21 人)
活動内容: ①移住と開発分野(専門家交流,移民や帰国者への小規模融資等)
②移住の促進(家族呼び寄せ,渡航手続,語学研修,文化紹介等)
③移住の管理行政(人身取引対策,出入国管理,不法入国対策等)
④非自発的移住(難民・国内避難民支援,帰還・再定住支援,
緊急人道援助,復興支援,除隊兵士の社会復帰,選挙と国民投票等)

 

3.ウィリアム・レイシー・スウィング事務局長(Ambassador William Lacy Swing, Director General)

1934年9月11日生まれ、米国ノースカロライナ出身の外交官。アフリカにおいて、米国大使及び国連での長いキャリアを持つ。

大使としての経歴
コンゴ民共和国大使 (1979–81)
リベリア (1981–85)
南アフリカ (1989–92)
・ナイジェリア(1992–93)
・ハイチ(1993–98)
コンゴ民主共和国 (1998–2001)
国連における経歴
国際連合西サハラ住民投票ミッション(MINURSO)団長(2001–2003)
コンゴ民主共和国国連PKO団長(2003-2008)
国際移住機関(IOM)事務局長(2008-)

 

4.「移民」の定義は?

IOMは「移民」を次のとおり定義している:当人の(1) 法的地位、(2) 移動が自発的か非自発的か、(3) 移動の理由、(4) 滞在期間に関わらず、本来の居住地を離れて、国境を越えるか、一国内で移動している、または移動したあらゆる人。

そのうち、IOMでは、移民と人の移動に関連する課題、また、関係国政府の同意に基づいて、国境を越えた人の移動に関するサービスを必要としている移民について、取り組んでいる。

国際(国境を越えた)移民の正式な法的定義はないが、多くの専門家は、移住の理由や法的地位に関係なく、本来の居住国を変更した人々を国際移民とみなすことに同意している。3カ月以上12カ月未満の移動を短期的または一時的移住、1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住と呼んで区別するのが一般的。

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5.IOMの日本での活動

日本におけるIOMの活動は1980年代のインドシナ難民受け入れ支援に始まり、近年では、日本を取り巻く人の移動の変化に対応した多様な取り組みへと拡大している。

人身取引(トラフィッキング)対策(移民の性的搾取や強制労働など深刻な人権侵害に立ち向かう活動)

難民の第三国定住(第三国定住とは難民が一時的な庇護国から、恒久的な定住が可能な第三国へ移動し、社会統合すること)

自主的帰国及び社会復帰支援(帰国手続きや帰国後の就業支援等)

 

6.最後に

スウィング事務局長が『パーフェクト・ストーム』から抜け出すための課題として挙げた4点のうち、日本に最も欠けているのが「幅広い議論」ではないでしょうか。移民の負の側面のみならず、様々なプラスの影響もあることを事実に基づいた議論が必要です。